思いもよらず歴史的仮名遣いの本を図書館で借りてしまいました。
ネットの書評を見て借りたのでこんなことになりました。
内容は、妻子ある男性と未亡人との恋の話。
恋愛小説は好きでよく読みますが、ドロドロしたところがなく、お互いに想いあっているのが良く伝わって、また読みたくなる一冊です。
目次
◆会話が弾むって大事ですよね
『 時雨 の記』は、未亡人と妻子ある男性の恋の物語。
未亡人は堀川多江、男性は壬生孝之助。それぞれ40代、50代です。
20年ぶりに出会った壬生の強引な行動に多江が引き込まれていきます。
多江は楽しんでいるようにも思えます。
壬生の会話は多江を困らせようとしているようにも思えます。
でも、二人の会話を読んでいると和みます。
相手の言葉を嫌味に取らないで、上手く返しています。
こんな会話をしたいと思います。
こんな風に積極的に出ても、それに応えてくれるような 女 に出会いたいなぁと思います。羨ましい。
でも、それには自分に壬生のような魅力がないとダメなんでしょうね。
こういう恋がうまくいく小説の男性は、社会で成功している人が多いです。
壬生も会社の社長をしています。
平凡な男では小説にならないのでしょうか?
多江は物静かな感じですが、壬生の我儘にもさらりと対応しています。
好きにさせているようで自分の意志もきちんと伝える。
おとなしい雰囲気の中に芯の強さが見えます。
壬生は出会った時から好きで、多江はだんだんと好きになっていく、その過程を見せられているようです。
でも多江も出会った時に、嫌いな人ではないという何かを感じていたのかなぁと思います。
出会いに運命を感じて(信じて?)積極的になれるっていいなと思います。
応えてくれる相手あってのことですね。
◆図書館のオンライン予約の功罪
私が住んでいる街の図書館はオンラインで借りたい本の予約ができます。
コロナ過になって以降、もっぱら予約して借りています。
図書館に行っても本を返すのと借りるので5分もかからずに帰ってきてしまいます。
時短という意味では最高です。
一方、本を手に取ってみてパラパラとページをめくって本を探すということをしなくなります。
『時雨の記』を図書館で本を手に取っていたら、借りなかったと思います。
歴史的仮名遣いじゃ読むのに骨が折れるよなと思うからです。
予約して、借りてきて、本を開いてみたら歴史的仮名遣い。
でもせっかく借りたのだから読んでみようと思い読み始めました。
読んでみたら読んでよかったと思える本でした。
こういうのはオンライン予約だから起きることですよね。
結局、一長一短で、これも本との出会いということですね。
◆「良人」って分かりますか
「良人」、どう読んで意味は何かご存知ですか。
私は、はじめ読めませんでした。
分からないなりに「りょうじん」と読んでいました。
それ自体は間違いではなかったのですが、単に音読みしていただけです。
当然、意味も分かりませんでした。
歴史的仮名遣いの字なんだろうと思っていました。
辞書で調べてみると、何と、「おっと」と読み、意味は夫でした。
今でも通用する使い方のようです。
「りょうじん」と読んでいると文の意味が分からず、読み飛ばしの様になっていました。
でも、「おっと」と読むと意味が分かるようになりました。
▽こんな一節
平常は、良人の好みで洋服ばかりを着てゐる、・・・
なんだ、そんな幸福な若奥さんなのかと、やきもちに似た、つまりその良人にさういう氣さへ感じた。 時雨の記
言葉の解説サイトでは次のように解説していました。
良人の正しい読み方は、「おっと」「りょうじん」どちらなのかを見ていきましょう。
結論から言ってしまうと、良人の正しい読み方は「おっと」「りょうじん」の両方になります。
良人(おっと)は「夫婦のうち、男性の方。妻の配偶者のこと」の意味として用いられています。
良人を「おっと」と読むと上記のような意味になりますが、
「りょうじん」と読むと上記の他に、「良い人。賢良(けんりょう)な人のこと」の意味も含まれます。 ギモン雑学
◆歴史的仮名遣い
この本を開いた時、歴史的仮名遣いの文章で驚きました。
1994年の新装版なのに歴史的仮名遣いなのに戸惑いました。
小説自体の発表は1977年です。
私が高2の年、その頃はとっくに現代仮名遣いだけどなぁ。
1998年に映画にもなっているんですね。全然知りませんでした。
▽こんな一節
「この位、もてるでせう、」
「なあに、これ、」
「帰ってから開けてごらん、ケーキが上にあるから、つぶさないやうに、」
「あら、ありがたう御馳走さま、あたし、電車の中で、食べようかしら・・・」
「いいね、そんなこときくと、一緒にゆきたくなるぢやないか、」
「さう、いいでせう、外を見ながらケーキを食べて、」
時雨の記
こんな感じの言葉づかいです。
全部で 226 ページありますが、読むにつれて慣れてきて、スイスイ読めるようになってきます。
分かると思いますが現代仮名遣いに替えてみます。
- もてるでせう ⇒ もてるでしょう
- つぶさないやうに ⇒ つぶさないように
- ありがたう ⇒ ありがとう
- ぢやないか ⇒ じゃないか
- さう、いいでせう ⇒ そう、いいでしょう
こんな感じでしょうか。
その上、古い漢字もあります。難しいです。
漢字は熟語から想像して読んでいました。
いくつか例を載せます。
- 辨當 ⇒ 弁当
- 應對 ⇒ 応対
- 聯絡 ⇒ 連絡
- 會 ⇒ 会
- 變る ⇒ 変る
- 戀 ⇒ 恋
- 實際 ⇒ 実際
- 萬事 ⇒ 万事
- 臺所 ⇒ 台所:これは分かりませんでした。別の熟語が出てきて分かりました。
- 慾 ⇒ 欲 :今の漢字は一部省略されているのですね。
- 獨乙 ⇒ ドイツ:独逸ならまだ分かるのですが
- 禮 ⇒ 礼
- 醫師 ⇒ 医師
裏を取ってないので間違いがあるかもしれませんが、本を読んでいて意味が通るので合っていると思います。
これだけでも分かっていると読みやすくなると思います。
現代仮名遣いで出てきました。
「良人」にも「おっと」とルビが付いていました。
図書館で借りた単行本は歴史的仮名遣いでしたが、今、手に入る文庫版は現代仮名遣いなのかもしれません。
それなら読みやすいですね。
この記事は無駄だったのかも (T_T)
◆渡辺淳一の『ひとひらの雪』を想い出す
これを読んでいて、渡辺淳一の『ひとひらの雪』を思い出しました。
こちらは妻子と別居中の男と人妻の恋(?)。
こちらでは、10年ぶりに再会してからというところと人妻が着物をよく着ているところが似ています。
『時雨の記』では、男が未亡人のところに会いに行き、身体の関係はありません。
こちらでは、人妻が男のところへ会いに行き、身体の関係があるところなどが違います。
それでも二人が会っている時の雰囲気が『時雨の記』に似ている気がします。
◆さいごに
恋愛小説をネットで検索して、内容を確認して読みたくなったものを図書館で借りるようにしています。
それなりの数を読んだので、最近は読みたくなる本がなかなか見つかりません。
そんな中で『時雨の記』は掘り出し物でした。
歴史的仮名遣いと古い漢字に悪戦苦闘しながらなんとか読めました。
後半はあまり悪戦苦闘することもなく読めました。
小説の内容は良いのに、歴史的仮名遣いがネックになって読めない人もいるだろうなと思い記事を書き始めました。
記事を大方書き終えた頃、現代仮名遣いの本の存在を知ります。
この記事、出せないかなとも思ったのですが、そういうものの存在をお知らせしてもいいかなと思い、この記事になっています。
そもそも小説の内容がいいので、そこはお知らせしないと。